「会社の支援で大型免許を取ったけれど、すぐに退職したら全額返さないといけない?」
「誓約書にサインしてしまったら、必ず支払う必要がある?」
大型免許・けん引免許・フォークリフトなどの取得費用を会社が負担してくれる「免許取得支援制度」は、トラックドライバーにとって魅力的な制度です。
しかし、求人票に「免許取得費用は会社負担」と書かれていても、短期間で退職すると費用の返還を求められる場合があります。
この記事では、会社の免許取得支援を利用したあとに退職した場合の返還義務について、過去の裁判例をもとに分かりやすく解説します。
この記事のポイント
- 短期間で退職しても、必ず返還義務が生じるわけではない
- 「会社負担」なのか「貸付け」なのかで結論が変わる
- 退職を不当に制限する返還規定は、無効になる可能性がある
- 誓約書に署名していても、必ず有効とは限らない
- 入社前に返還条件と費用明細を確認することが重要
大型免許の取得条件・費用・期間について確認したい方は、こちらの記事も参考にしてください。
「大型免許を取るには?取得条件・費用・期間をわかりやすく解説」
求人票で免許取得支援以外に確認すべき条件については、こちらの記事で詳しく解説しています。
「その求人、本当に大丈夫?トラックドライバーが求人票で確認する7つのポイント」
結論|短期退職だけで必ず返還するとは限らない
会社の免許取得支援を利用して短期間で退職しても、それだけで必ず費用を返さなければならないわけではありません。
返還義務があるかどうかは、会社が支払った費用の性質や、免許を取得した経緯、契約内容などによって変わります。
主に確認されるのは、次のような点です。
- 会社から支給された費用なのか
- 会社が一時的に立て替えた貸付金なのか
- 免許取得が会社の業務命令だったのか
- 本人が自由に制度を利用したのか
- 返還条件が事前に説明されていたか
- 返還額や勤務期間が合理的か
- 返還義務が退職を不当に制限していないか
契約書に「貸付金」「返還義務」と書かれていても、名称だけで決まるわけではありません。
制度の内容や免許取得の実態を含めて、総合的に判断されます。

なぜ免許取得費用の返還が問題になるのか
労働基準法第16条では、会社が労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額をあらかじめ決めたりすることを禁止しています。
例えば、「入社後3年以内に退職した場合は、違約金として100万円を支払う」というような契約です。
このような契約が認められると、従業員は高額な支払いを恐れて退職できなくなってしまいます。
そのため、免許取得費用の返還制度についても、実質的に退職を防ぐための違約金になっていないかが問題になります。
ただし、会社による通常の金銭の貸付けまで禁止されているわけではありません。
本来トラックドライバー本人が負担する免許取得費用を会社が貸し付け、一定期間勤務した場合に返済を免除する制度であれば、有効と判断される可能性があります。
返還が必要になる可能性が高いケース
免許取得費用が会社からの貸付金と判断される場合は、退職時に返還が必要になる可能性があります。
ここでは、返還義務が認められやすい代表的なケースを確認していきましょう。
本人が希望して免許を取得した
会社から命令されたのではなく、本人が希望して免許取得支援制度を利用した場合は、返還義務が認められやすくなります。
例えば、普通免許しか持っていない人が、仕事の幅を広げるために大型免許の取得を希望した場合です。
制度を利用するかどうかを本人が自由に選択できたことは、重要な判断材料になります。
取得した免許を転職先でも利用できる
大型免許、けん引免許、第二種免許などは、会社を退職しても本人に残ります。
取得した免許は転職先でも利用でき、仕事の選択肢や収入を増やすことにもつながります。
このように本人が受ける利益が大きい資格は、本来本人が費用を負担するものとして、会社による立替払いや貸付けが認められやすくなります。
貸付契約と返還条件が明確だった
免許取得費用について、雇用契約とは別に金銭消費貸借契約書や誓約書を作成している場合は、会社からの貸付金と判断されやすくなります。
契約書では、次の内容が明確になっているかが重要です。
- 会社が貸し付ける金額
- 自動車教習所の授業料
- 受験料や交通費
- 返還が免除される勤務期間
- 途中退職した場合の返還額
- 返済方法
- 利息の有無
本人が返還条件について十分な説明を受け、内容を理解したうえで同意したかどうかも重要です。
返還額と勤務期間が合理的だった
返還額が実際に会社が支払った費用の範囲内で、返還を免除されるまでの勤務期間も不当に長くなければ、有効と判断される可能性があります。
過去の裁判では、タクシードライバーの第二種免許取得費用について、約20万円を会社が立て替え、2年間勤務すれば返還を免除する制度が有効と判断された例があります。
ただし、「2年間なら必ず有効」という意味ではありません。費用の金額、本人への説明、制度を利用した経緯などによって判断は変わります。
返還しなくてもよい可能性があるケース
契約書に返還義務が書かれていても、免許取得費用が本来会社の負担すべき経費だった場合や、返還制度が退職を不当に制限している場合は、返還請求が認められない可能性があります。
免許取得が会社の業務命令だった
会社が業務上必要な免許や資格を取るように命じた場合、その費用は会社が負担すべき業務上の経費と判断される可能性があります。
本人が制度の利用を断れず、会社の指示に従って免許を取得した場合も同様です。
求人への応募条件を満たすために本人が自主的に取得する場合と、入社後に会社の命令で取得する場合では、費用の性質が異なります。
会社で働くためだけに必要な研修だった
一般的な新人教育、安全教育、社内ルールの説明などは、会社が従業員を働ける状態にするために行うものです。
このような研修費用は、原則として会社が負担すべきものと考えられます。
免許取得費用に社内研修費や指導料を上乗せし、高額な返還を求められた場合は、請求された金額の内訳を確認しましょう。
求人票では「会社負担」と説明されていた
求人票に「免許取得費用は全額会社負担」「自己負担なし」などと書かれていた場合は、入社後に突然「貸付金だった」と説明されても問題になる可能性があります。
「会社負担」と「会社が一時的に立て替える貸付け」は、意味が異なります。
貸付制度であれば、会社は応募者に対して、短期間で退職した場合の返還条件を事前に明確に説明する必要があります。
求人票や会社のホームページに記載されていた内容は、スクリーンショットなどで保存しておきましょう。
費用の金額や内訳が分からない
会社から請求された金額について、教習所の授業料、受験料、交通費などの内訳が分からない場合も注意が必要です。
実際にかかった費用を超える金額や、会社が独自に決めた研修費・指導料まで含まれている場合は、すべてが返還対象になるとは限りません。
返還を求められたときは、合計金額だけでなく、会社が実際に支払ったことが分かる領収書や明細書の提示を求めましょう。
給料や手当まで返還対象になっている
教習期間中に支払われた給与や手当は、実質的に賃金であれば原則として返還対象にはなりません。
過去のタクシー会社に関する裁判では、第二種免許を取得するための自動車教習所の授業料と交通費は、ドライバー本人が負担すべき費用として返還が認められました。
一方、教習期間中の日当と就職支度金は、給与明細の手当欄に記載され、賃金として扱われていたため、返還が認められませんでした。
会社がすべてを「貸付金」と呼んでいても、実際に給与として支給されていた金銭まで返還対象になるとは限りません。
給与明細にどのような名目で記載されているかも確認しましょう。
誓約書にサインしたら必ず返さないといけない?
誓約書に署名していても、その内容が必ず有効になるわけではありません。
会社が「誓約書にサインしているから全額返還してください」と主張しても、契約の内容や署名したときの状況によっては、返還規定が無効と判断される可能性があります。
特に、次のような内容には注意が必要です。
- 返還する金額が書かれていない
- 費用の具体的な内訳が分からない
- 返還条件について事前に説明を受けていない
- 入社時にその場で署名を求められた
- 免許取得支援を利用しない選択肢がなかった
- 退職理由に関係なく全額返還する内容になっている
- 長期間勤務しなければ返還を免除されない
- 給与や業務上の経費まで返還対象になっている
- 実際の免許取得費用を超える金額が設定されている
重要なのは、誓約書に署名したかどうかだけではありません。
従業員が返還条件について十分な説明を受け、内容を理解したうえで、自由な意思によって同意したかどうかも判断材料になります。
契約書を渡されたら、その場ですぐに署名せず、一度持ち帰って内容を確認しましょう。
免許取得支援を利用する前に確認する7項目
免許取得支援のある運送会社へ転職するときは、費用を負担してもらえるかだけでなく、退職した場合の返還条件まで確認することが大切です。
契約する前に、次の7項目を確認しましょう。
1.支給か貸付けか
求人票に「会社負担」と書かれていても、それだけでは返還不要なのか判断できません。
返還する必要がない「支給」なのか、会社が一時的に費用を立て替える「貸付け」なのかを確認しましょう。
2.返還が免除される勤務期間
「一定期間勤務すれば返還不要」という説明だけでは、具体的な期間が分かりません。
1年、2年、3年など、いつまで勤務すれば返還を免除されるのかを書面で確認しましょう。
3.返還対象となる費用
自動車教習所の授業料だけでなく、受験料、交通費、宿泊費、研修費などが返還対象に含まれることがあります。
何にいくらかかり、退職時にどの費用を返すのか、具体的な内訳を確認しましょう。
4.退職時の返還額
返還額が勤務期間に関係なく全額なのか、勤務した期間に応じて減額されるのかを確認します。
例えば、2年間勤務すれば全額免除される契約でも、1年11か月で退職すると全額返還になる場合があります。返還額が段階的に減る仕組みになっているかも確認しましょう。
5.返済方法
退職時に一括返済するのか、分割払いが認められるのかを確認しましょう。
免許取得費用が高額な場合、一括返済しか認められない契約では、退職後の生活に大きな影響が出る可能性があります。
6.自己都合以外で退職する場合の扱い
病気やけが、家族の介護、会社都合による退職など、やむを得ない事情がある場合の扱いも確認しておきましょう。
退職理由に関係なく必ず全額返還する契約なのか、事情によって減額や免除が認められるのかを書面で確認することが大切です。
7.契約書を持ち帰って確認できるか
入社時に契約書や誓約書を渡されても、その場ですぐに署名する必要はありません。
できるだけ一度持ち帰り、返還する金額、勤務期間、返済方法などを落ち着いて確認しましょう。
口頭で説明された内容についても、契約書に記載してもらうことが重要です。署名した契約書の控えは必ず受け取り、退職するまで保管してください。
会社から免許取得費用の返還を求められたときの対応
会社から免許取得費用を請求されても、その場ですぐに支払う必要があるとは限りません。
まずは契約内容と請求金額の根拠を確認するため、関係する書類や記録を集めましょう。
- 応募時に見た求人票
- 雇用契約書
- 労働条件通知書
- 就業規則
- 免許取得支援制度の規程
- 誓約書
- 金銭消費貸借契約書
- 給与明細
- 会社から渡された費用明細
- 会社とのメールやメッセージ
書類を集めたら、会社に次の内容を確認します。
- 請求金額の具体的な内訳
- 会社が実際に支払った金額
- 返還請求の根拠となる契約
- 勤務期間による減額の有無
- 分割払いの可否
契約内容や請求金額に納得できない場合は、都道府県労働局の総合労働相談コーナー、法テラス、弁護士などへの相談を検討しましょう。
会社から請求されたという理由だけで支払いを決めず、書類と事実関係を整理してから対応することが大切です。
返還請求を理由に無理をして働き続けない
高額な返還請求を恐れて、労働環境に問題のある会社で無理をして働き続けるのは危険です。
長時間労働、未払い残業代、無理な運行指示、パワハラなどがある場合は、免許取得費用の返還とは別に、会社側の対応が問題になる可能性があります。
誓約書に署名していても、それだけで会社を退職できなくなるわけではありません。
会社を退職できるかどうかと、免許取得費用を返す必要があるかどうかは、別の問題として考えましょう。
返還を求められた場合も、請求内容が正しいかを確認し、必要に応じて専門機関へ相談することが大切です。
免許取得支援のある求人を複数比較しよう
免許取得支援制度の内容は、運送会社によって異なります。
同じ「大型免許の取得費用を会社が負担」という求人でも、返還不要の会社もあれば、一定期間内に退職すると全額返還になる会社もあります。
1社だけで決めず、複数の求人を比較し、支援額・返還条件・給料・休日・仕事内容まで確認しましょう。
トラックドライバー向け転職サイトの特徴や求人の探し方は、次の記事で比較しています。
まとめ|「会社負担」という言葉だけで判断しない
会社の免許取得支援を利用して短期間で退職しても、必ず費用を返さなければならないわけではありません。
返還義務があるかどうかを判断するときは、次の点が重要になります。
- 免許取得が会社の業務命令だったか
- 本人が自由に制度を利用したか
- 会社からの支給ではなく貸付けだったか
- 取得した免許が退職後も本人の利益になるか
- 費用と返還条件が明確だったか
- 返還額と勤務期間が合理的か
- 退職を不当に制限する制度ではないか
これから免許取得支援のある運送会社へ転職する人は、求人票の「会社負担」「取得費用無料」という言葉だけで判断してはいけません。
入社前に契約書を確認し、退職した場合の返還条件まで理解したうえで制度を利用しましょう。
※この記事は、免許取得費用の返還に関する一般的な情報を紹介するものです。実際の返還義務は、契約内容や免許取得の経緯などによって異なります。個別の法的判断が必要な場合は、都道府県労働局の総合労働相談コーナー、法テラス、弁護士などの専門機関へ相談してください。
参考資料
e-Gov法令検索「労働基準法」
厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」
コンドル馬込交通事件(東京地方裁判所・平成20年6月4日判決)
東亜交通事件(大阪高等裁判所・平成22年4月22日判決)

