トラックドライバーの固定残業代は違法?最高裁判決から見る注意点

求人票を持つドライバーとトラック、判決書と天秤を添え、固定残業代と最高裁判決の確認ポイントを示した画像。 給料・待遇

求人票を見ていると、「月給35万円(固定残業代を含む)」などと書かれていることがあります。

「固定残業代がある会社は違法なの?」「どれだけ残業しても給料が変わらないの?」と不安になる人もいるのではないでしょうか。

固定残業代は、制度があるだけで直ちに違法になるわけではありません。しかし、通常の賃金と残業代を区別できない場合や、固定残業時間を超えた分が支払われない場合は問題になる可能性があります。

トラックドライバーは、荷待ちや積み降ろし、渋滞などによって労働時間が長くなりやすいため、固定残業代の仕組みを入社前に確認しておくことが大切です。

この記事では、固定残業代が問題になるケースと、トラック運転手の給与体系が争われた熊本総合運輸事件の最高裁判決について分かりやすく解説します。

この記事のポイント

  • 固定残業代があるだけでは違法とは限らない
  • 通常の賃金と残業代を区別できることが重要
  • 固定残業時間を超えた分は追加で支払われる必要がある
  • 基本給の一部を残業代に付け替えただけでは認められないことがある
  • 給与の名称だけでなく、給与体系全体と実態を確認する

固定残業代の基本的な仕組みや求人票の見方を先に確認したい場合は、こちらの記事をご覧ください。
「トラックドライバーの固定残業代とは?求人票で確認したい仕組みと注意点」

給与明細で基本給や残業代を確認する方法については、こちらの記事も参考になります。
「トラックドライバーの給与明細の見方|基本給・手当・控除で確認するポイント」

固定残業代があるだけでは違法ではない

固定残業代とは、一定時間分の時間外労働などに対する割増賃金を、実際の残業時間にかかわらず毎月定額で支給する仕組みです。

会社によっては「みなし残業代」「定額残業手当」「営業手当」など、異なる名称が使われることもあります。

固定残業代があるからといって、その会社が直ちに違法になるわけではありません。実際に残業をしなかった月でも、決められた固定残業代は原則として支給されます。

また、「40時間分の固定残業代が含まれている」と書かれていても、必ず40時間残業しなければならないという意味ではありません。

一方、実際の時間外労働などに対する割増賃金が固定残業代を上回った場合は、不足する金額を追加で支払う必要があります。

固定残業代が問題になる3つのケース

通常の賃金と残業代を区別できない

固定残業代が割増賃金の支払いとして認められるためには、通常の労働時間に対する賃金と、時間外労働などに対する割増賃金を区別できることが重要です。

たとえば、「月給35万円・残業代を含む」としか書かれていない場合は、基本給がいくらで、残業代がいくらなのか分かりません。

給与の内訳や計算方法が不明確な場合は、求人票だけで判断せず、面接や労働条件通知書で確認しましょう。

固定残業時間を超えた分が支給されない

固定残業代を支給していても、それだけですべての残業代を支払ったことになるとは限りません。

実際の時間外労働などに対する割増賃金が固定残業代を上回った場合は、その差額を追加で支払う必要があります。

「固定残業代を払っているから、それ以上の残業代は出ない」という説明を受けた場合は注意が必要です。

基本給の一部を残業代に付け替えている

これまで基本給や歩合給として支払われていた賃金の一部を、合理的な理由がないまま「固定残業代」や「調整手当」という名称に変更しているケースもあります。

給与の総額が以前とほとんど変わらず、残業時間が増えても追加の支払いが発生しない仕組みになっている場合は、残業代として認められない可能性があります。

給与項目の名称だけでなく、その金額がどのように決まり、何に対する賃金として支払われているのかを見ることが重要です。

固定残業代で重視される「対価性」と「明確区分性」

残業に対する対価として支払われているか

固定残業代については、その手当が本当に時間外労働などに対する対価として支払われているかが問題になります。これを「対価性」と呼びます。

判断するときは、手当の名称だけでなく、雇用契約書や就業規則の内容、会社からの説明、給与の計算方法、実際の勤務状況なども考慮されます。

残業時間と関係なく金額が決まり、通常の賃金まで含まれている場合は、すべてを残業代として扱えない可能性があります。

通常の賃金と割増賃金を判別できるか

通常の労働時間に対する賃金と、時間外労働などに対する割増賃金を判別できることも重要です。これを「明確区分性」または「判別可能性」と呼ぶことがあります。

給与明細に「時間外手当」と記載されていても、その名称だけで残業代として認められるわけではありません。

給与体系全体を確認しても、どの部分が通常の賃金で、どの部分が割増賃金なのか分からない場合は、適切な割増賃金の支払いと認められない可能性があります。

トラックドライバーの残業代が争われた熊本総合運輸事件

会社が給与体系を変更した経緯

熊本総合運輸事件は、トラックドライバーが会社に対し、時間外労働、休日労働、深夜労働などに対する未払い賃金を請求した事件です。

会社では、運行内容などに応じて毎月の賃金総額を決め、そこから基本給などを差し引いた残額を割増賃金としていました。

その後、労働基準監督署から適正な労働時間の管理について指導を受けたことをきっかけに、会社は給与体系を変更しました。

しかし、給与体系を変更した後も賃金総額の決め方は基本的に変わらず、以前は通常の賃金とされていた基本歩合給の一部が、調整手当などの割増賃金に組み替えられていました。

最高裁が問題としたポイント

最高裁は、時間外手当と調整手当が形式上分けられていても、計算上区別された金額にそれぞれ名前を付けた以上の意味を見いだせないと判断しました。

旧給与体系では、通常の労働時間に対する賃金が1時間当たり平均1,300円から1,400円程度だったとみられるのに対し、新給与体系では約840円まで大きく減少する計算になっていました。

さらに、対象となった19か月間の時間外労働などは月平均80時間弱でしたが、調整手当まで残業代と考えると、実際の勤務状況からは想定しにくいほど長時間の残業を見込んだ金額になっていました。

会社から従業員に対して、給与体系の変更によって通常の賃金や残業代の扱いがどのように変わるのか、十分に説明されたとも認めにくい状況でした。

給与の名前を変えただけでは残業代と認められない

最高裁は、新しい給与体系について、従来は通常の賃金として支払われていた基本歩合給の一部を、名目上、割増賃金に置き換えたものだと判断しました。

そのため、割増賃金とされた部分には通常の労働時間に対する賃金も相当程度含まれており、どの部分が本来の割増賃金なのか判別できないとしました。

最高裁は、会社が時間外手当を支払うことで労働基準法上の割増賃金を支払ったとした福岡高裁の判断を破棄しました。そのうえで、未払い賃金の金額などを改めて審理させるため、事件を福岡高裁へ差し戻しました。

この判決から分かるのは、給与の一部に「時間外手当」「調整手当」「固定残業代」などの名前を付けるだけでは十分ではないということです。

通常の賃金と割増賃金を明確に区別でき、実際に残業の対価として支払われているかどうかが重要になります。

トラックドライバーが給与体系で確認したい7つのポイント

固定残業代が含まれる求人へ応募するときは、次の7点を確認しましょう。

  • 固定残業代を除いた基本給はいくらか
  • 固定残業代の金額はいくらか
  • 何時間分の時間外労働などが含まれているか
  • 固定残業時間を超えた分が別途支給されるか
  • 実際の月平均残業時間は何時間か
  • 荷待ちや積み降ろしの時間が記録されているか
  • 給与明細で固定残業代と超過分を確認できるか

月給の総額が高く見えても、基本給が低く、多くの残業を前提とした金額になっていることがあります。

面接では、「平均的なドライバーの出勤時刻と退勤時刻」「超過分の支給実績」「荷待ち時間の記録方法」まで質問してみましょう。

質問に対して具体的に説明してくれるかどうかも、会社を判断する材料になります。

残業代に疑問があるときに残しておきたい資料

残業代が正しく支払われていないと感じたときは、給与の条件と実際の勤務時間を確認できる資料を残しておくことが大切です。

手元にある資料や、自分が適法に閲覧・取得できる記録を、できるだけ保存しておきましょう。

  • 求人票や求人広告の画面
  • 労働条件通知書や雇用契約書
  • 就業規則や賃金規程
  • 給与明細
  • タイムカードや勤怠記録
  • 運転日報や作業日報
  • デジタルタコグラフの記録
  • 配車担当者とのメールやメッセージ
  • 出退勤時刻や荷待ち、積み降ろしの時間を記録したメモ

給与明細だけでは、実際に何時間働いたか分からないことがあります。勤務時間の記録と組み合わせて確認しましょう。

会社に確認するときは、「どの賃金を基準に計算しているか」「固定残業代で不足する分をどう精算しているか」など、疑問点を具体的に整理しておくと説明を求めやすくなります。

説明を受けても疑問が解消されない場合や、会社に直接確認しにくい場合は、労働基準監督署や総合労働相談コーナー、労働組合、弁護士などへの相談を検討しましょう。

まとめ|固定残業代は名称だけでなく実態を確認しよう

固定残業代があるだけで、その会社が直ちに違法になるわけではありません。

大切なのは、通常の労働時間に対する賃金と割増賃金を区別でき、固定残業代が時間外労働などの対価として支払われていることです。また、法律に基づいて計算した割増賃金が固定残業代を上回る場合は、不足分を追加で支払う必要があります。

熊本総合運輸事件の最高裁判決では、手当の名称や計算上の区分だけでなく、給与体系全体、実際の勤務状況、従業員への説明などが検討されました。

転職先を選ぶときは、月給の総額だけで判断せず、基本給、固定残業代の金額と対象時間、超過分の取り扱いまで確認しましょう。

※この記事は一般的な情報を紹介するものであり、個別の事案について適法・違法を判断するものではありません。給与や残業代に疑問がある場合は、労働基準監督署や弁護士などにご相談ください。

参考資料

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